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この地球の莫大な糞問題

毎年、畜産動物はものすごい量の糞便を排泄している。これは自然界を毒づけ始めている。これについてどう“フン”切りをつけようか?

by デービット・コックス

世界の農家ではどれくらいの糞が発生しているのか?

最近の調査によれば、2030年までに地球が生み出す糞の量は、少なくとも毎年50億トンにも昇ると推定されていて、その多くが畜産動物により堆積されたものとしている。オランダの約80%の農家はすでに、法的に利用できる肥料以上の牛糞を生産しており、中国では川に放たれている肥料の量を減らすために抜本的な処置をとろうと試みている。これは環境面と健康面での大きな挑戦だと科学者たちは述べる。

 家畜排泄物の大半は2003-2030年の間で40%増加する見込み

Guardian Graphic | 出典: FAO, UN, Yang et al

「これは大きな問題だ」とジョージア技術研究所の環境工学教授、ジョー・ブラウン氏は言う。「人口と富が増えるにつれ、プロテインの需要は大きくなり、そのため家畜排泄物は増加の一途をたどっている。しかし、人間の排泄物を安全に管理するための構想案は多く見られたのに、この問題について語る者は誰もいない。」

なので、この問題について語ろう:UKではどれくらい重大な問題なのか?

環境庁の広範囲にわたる規定に関わらず、2010年から2016年の間の排泄物廃棄に関連した深刻な公害を引き起こした424の事件は、UKの乳製品や鶏、豚の農場に責任があった。

UKにいる牛からはすでに毎年3600万トン(イングランドの高層ビル・シャードを78回分埋め尽くせる量)の排泄物が生産されており、多くの酪農家は牛乳の価格転落、山のようにあるこれら毒性の排泄物を安全に廃棄するという、深刻で高額な難題に危機を感じている。

連鎖する環境リスクとは?

世界初の農業システムの多くが一ヶ所に集中しており、また工業経営のため、濃縮された排泄物を生産している。この問題が早急に対処されなければ、大量に出される硫化水素や亜酸化窒素、アンモニアのような有害ガスが空気を汚染する。

これらの有毒な蒸発気を吸い込むことは大量死を招くこともでき、工業地帯の近隣住民は慢性喘息、呼吸器炎症、免疫抑制、気分障害までをも引き起こす重大な危険にさらされていると、幾度となく研究で示されてきた。

水質汚染と気候変動もまた問題である。

ニジェール共和国の幼い女の子が市場で売るための動物の糞を頭に抱えている。写真:Plan International

さらに、温室効果ガスのメタンは腐敗するままに放置された排泄物から大量に生産されている。家畜排泄物は早くも見過ごされた気候変動の要因であると、多くの科学者たちは思っている。「メタンガスが初めて放出されると、熱を閉じ込めるCO2より80倍もひどく、酸化し地球温暖化の可能性が減少するまで1020年も存続する」と、クランフィールド大学・気候と環境保護センター教授のフィリップ・ロングハースト氏は話す。「ヨーロッパ全土にかかるメタンガス排出源をみると、農業廃棄物がおそらく上位3位に入るだろう。」

19802010年の劇的な経済成長の一部として、動物性たんぱく質の生産が5倍に増加した中国では、家畜排泄物からのメタンが、同時期に空気中の温室効果ガスの排出量を2倍にした、主な原因の1つであると思われていた。

水質汚染の問題は?

今のところ、水路に対する肥料の影響が最も注目を集めている。これはいずれも誤って流出・冠水したか、もしくは農家が故意に過剰な排泄物を川に流したかが関連している。多くの国々では違法であるにも関わらず、後者の慣例が当たり前となっていることを調査団は突き止めている。

このひどい問題に対する解決案


2030年までに、世界の糞便の総排出量には、1億トンのリン、3000万のカリウム、そして1800万トンのカルシウムが含まれるとされる。もし採取できればすべて価値あるこれらのミネラルは、世界中の農業システムで再利用することも可能だ。

加えて、排泄物から排出されるメタンなどはバイオガス発電機を通して電気に転換することができると、犬の糞から電気をすべて供給できる街灯を作った英国の発明家は最近こう強調している。「メタンはとても万能的な燃料」とロングハースト氏は言う。「メタンは家庭内や工業用の暖房、輸送の電力生成にさえ利用することができる。今後数年間で、気候変動を懸念しているヨーロッパ全土およびその他の国々で、家畜排泄物からのメタンの排出を抑制し、より有効なものに利用できることへの圧力が高まっていくだろう。」

排泄物はまた価値ある資産として捉えられているが、それが大半の農家たちによって利用されているかどうかは未だみられない。「もし、あなたが都会に住んでいて、発電機を導入するスペースもなく、排泄物を流すのが簡単なように思えるのなら」、とリバプール大学の獣医感染症学教授のエリック・フェブレ氏はこう続ける。「発電機に投資する資金を入手する必要もある。そして排泄物を利用するには時間と手間がかかる。しかし、最初の支出よりも利益が上回ることに希望がみえるので、より大きな規模でそれは起こり始める。」

嫌気性消化装置を通して環境にやさしいエネルギーを生産するための家畜排泄物を開発するには、肥やしを保管する巨大なスラリー貯槽が必要であり、それは倒壊もしくは漏れやすい。調査団は、牛100頭分の排泄物をすべて保管できるくらいの大きな貯槽に、UKの農家たちが数十万ポンドの費用を負担しなければならないことを突き止めており、それは新たな貯槽を購入するよりも違法廃棄した際の罰金のほうが経済的に支払える額を意味している。

もっと異国の果ての革新では、排泄物を家具や紙、衣服にまで変えられることを確信している会社もある。

これらは大きな変化をもたらしそうもない。排泄物の安全管理への組織的アプローチが必要になるだろう。

生物学的因果関係は通常抜本的で、肥料に含まれる高レベルのリンと硝酸塩などが、飲料水媒介の病原体の拡散や有毒な藻類の花の成長を引き起こしている。後者は致命的な神経毒物を放出することで野生生物に害を与え、もし淡水と海水に拡散された場合、食物連鎖に入り込み、人間により消費されることになる。

事例として、中国にある淡水湖の約半分は汚染されており、それは多くの田舎社会でコレラのような病気の増大をもたらしている。一部の科学者は、動物由来肥料に対する効果的な方策が見つからない限り、この国の多くの河川区域でリンと硝酸塩汚染が2050年までに100200%増加すると予想している。

「水質汚染は家畜排泄物の廃棄によりもたらされる重大な問題の1つ」と、アジア全土の農業公害を何年も調査しているヴァーヘニンゲン大学教授のオエン・オエネマ氏は言う。「排泄物が川に廃棄されたとき、湖や海岸区域に流れていき、魚が消え、水はどす黒くなり、人間に伝染病がうつるリスクが高い。中国の一部では、今でも上水に廃棄している。」

ニューデリーの端の地区でインド人女性が動物の糞を燃料として使えるように乾かしている。
写真:Prakash Singh/AFP/Getty Images

人間の健康に及ぶ危険は?

家畜排泄物の増大による最も直接的な健康への危害は、アフリカやインド、西南アジアなどの未だに家畜と近い環境で暮らしている社会から来ている。これらの社会の経済が成長し、十数年のうちにさらに都会化が進めば、プロテインの需要は糞の量とともに急激に上昇する。

「これは莫大な人口増大がみられる場所、例えば西南アジアとサハラ以南のアフリカなどでは最も切実な問題になるだろう。」とブラウン氏は話す。

サハラ以南のアフリカ全土で多くの下水設備構想が人間の排泄物だけに集中しているのと同時に、彼らがより甚大な問題を見過ごしているのではないかと科学者たちは恐れている。「低収入の国々でかなりの研究がなされ、人間の下水設備が改善されてきたが、下痢症状などの結果は変わらなかった」とゲイツ財団の下水設備・衛生部門のシニアプログラム幹部、ジャンウィレン・ローゼンブーム氏は言う。「この状況はすでにたくさんの家畜排泄物が地球上にあるためで、人間の排泄物の衛生面を単に改善したからと言って、健康面に十分な影響を与えるとは限らない。」

ヨーロッパやアメリカでは、動物の糞が直接露出するのを人間が避けていることを表している、集中管理された農業システムがあるのに対し、多くの低・中収入の国々ではこれに程遠い状況にあり、特に子供たちにとって腸管感染症が未だに主な死因の原因になっていることを意味している。科学者たちは、死に至る多くの感染症は動物由来だと疑っており(つまり動物や糞尿から直接人間に伝染することを意味する)、家畜動物に高い容量の抗生物質を使用している農家の国々では、家畜の多くに抗生物質の耐性があるかもしれないという。

「家畜生産に使われている多くの動物は、動物由来感染症の宝庫だ」とブラウン氏は話す。「私たちがすでに知っているものでいうと例えば、鶏はサルモネラ菌やA型肝炎を伝染させ、牛はクリプトスポリジウム症の感染源として知られている。これらの感染症は長期にかけて栄養失調や貧血、認知関連の問題などの結果をもたらしかねない。」

アルゼンチン・ブエノスアイリス近くの農家の子豚たち。豚の肥やしから排出されるメタンをバイオガスや電力の生産に使われている。写真:Prakash Singh/AFP/Getty Images

家畜動物の糞の開発で環境にやさしいエネルギーに変換する嫌気性消化装置には、莫大な量の肥やしを保管できるスラリー貯槽が必要で、それはよく漏れたり倒壊しやすい。調査団は、100頭の牛から出たすべての糞を貯蔵するのに十分な広さの貯槽は、UKの農家たちにとって何十万ポンドもの費用がかかることを突き止めている。多くの農家にとって、これは新しくスラリー貯槽を購入するよりも違法廃棄する費用のほうが経済的に実行できることを意味している。

さらに異国の果ての革新では、排泄物を家具や紙、衣類にまで変換できることを確信している会社もある。

これらが大きな影響を与えるとは思い難い。排泄物を安全に管理する組織的アプローチは必須である。

次は何?


2006
年、国連は画期的レポート「Livestock’s Long Shadow(家畜動物の長い影)」を発表し、家畜排泄物の量の増加による環境面と健康面の深刻な問題について強調しており、早急な対応を呼びかけている。けれども、小さな進捗しか見られない。

中国が先陣を切ることを試み、2015年に家畜排泄物の廃棄に関する厳格な規制を発表し、農家が排泄物を合成肥料の代替えとして再利用する必要性を力説した。とはいえ、過酷な罰金の脅しにも関わらず、評論家たちはこの規制が効果を証明するのか疑問を抱いている。

小規模のプロジェクトは水面下で進んでおり、たとえばヴィエナ大学の科学者チームによる尽力で、ヨーロッパ全土のさまざまな農家と協力して、家畜の糞を紙に転換する手助けをしているプロジェクトなどだ。新たな収入傾向の可能性が、世界の多くの農家たちに排泄物をどう処理するかという行動に刺激を与えるが、同時にすぐさま新しい政策や構想、差し迫る問題に対処するための大規模な協議などの必要が残っている。

2016
年、エンヴァイロメンタル・ジャーナルはこの問題をめぐり「政治的無関心」と酷評した。その後3年間、特に変化はなかった。「家畜排泄物をどう安全に管理するかの規制について、世界中に大きなズレがある。これらが代表するすべてのリスクに関わらずだ。」ブラウン氏は言う。「これは失われた大きい断片で、長い間見過ごされてきた問題だ。アメリカでは、家畜排泄物をどう扱うかに関する規則はとても少ない。全世界も同様だ。それが環境問題に行き着き、人々を下流にさらすことにつながるとしても、排泄物の再利用と安全な管理法の組織的アプローチはない。」

南アフリカ・プレトリア近くの、エネルギー生産のため牛糞が利用されているガス発電所で草を食べている牛。
写真:Mujahid Safodien/AFP/Getty Images

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